名優・平幹二朗と佐久間良子を両親に持つ平岳大(ひら・たけひろ)。役者の家に生まれ、サラブレッドの血筋でありながら、すぐに役者の道を目指すことはしなかった。両親の苦労を見ていたからだろう。一般企業での勤務経験を経てから、役者の道を歩みだし、今年で五年になる。今までに父や母と一緒の舞台の他にも何本かの舞台を演じてきたが、来年1月にルテアトル銀座で「ジンギスカン」の主役に挑むことが決まった。今までに多くの名優が演じてきた歴史のヒーロー・ジンギスカンに挑む平さんと、舞台への想いを語った。
中村「今までの舞台を何本か拝見しましたが、「鹿鳴館」にしても「オセロー」のイアーゴーにしても、決してヒーロー的な役柄ではありませんでしたね。むしろ、悪役に近い。今回の「ジンギスカン」は紛れもないヒーローですし、しかも、タイトルロールです。当然今までの舞台とは違う感覚をお持ちだと思いますが」
平「そうですね。台本を読んだ時に、「初めて正統なラブ・ストーリーが演じられる」と思いました。ただ、舞台だけではなく、テレビや映画でも多くの方が演じていますから、自分がどういうジンギスカンを演じられるのか、という悩みはありますね」
中村「名作だけに先行作品も多いですが、そういう場合は他の方のビデオや何かを参考にされるのですか?」
平「なるべく他の方のビデオは観ないで、自分で努力をしてジンギスカン像を創るつもりでいます。苦しくても自分でイメージを創るところからはじめます」
中村「平さんにとってのジンギスカン像というのは?」
平「イメージで言えば、草原をわたる爽やかな一陣の風、のような男ですかね。ただ、それだけではあまりにも漠然としてしまいますので、スケールの大きな男として演じたいですね。肉体的にも彼が懐の広い偉大な人物であったということを、お客様に納得していただけるような。そのためにトレーニングもしています」
中村「平さんは体格がいいですから、イメージとしては適役かも知れませんね。後は内面的な部分ですが、ジンギスカンの性格をどう捉えていますか?」
平「強烈なパワーと生命力を持った人物だな、と思います。人を「信じる」とか「愛する」というのは、すごいエネルギーが必要だと僕は思うんです。単に大草原を駆け巡っているだけではなく、一族の長(おさ)としての度量と言うか、人間としての器の大きさですね。そこを何とか表現できるように、120%ぐらいのエネルギーを出したいと思います」
中村「役者として舞台でデビューされて5年目で主役ということですが…」
平「そういう点ではすごくいい脚本に恵まれたと思います。読んでいて思わず泣いてしまうようなシーンもありましたし。また、若林豪さんや榎木孝明さん、伊吹吾郎さん、榛名由梨さんなど、大先輩がたくさんいらっしゃいます。皆さん素敵な自分の世界をお持ちですから、ご迷惑をかけないように、胸を借していただくつもりで全力でぶつかるつもりでいます」
中村「その体格で全力でぶつかられたら、相手は倒れますよ(笑)。私も脚本を読みましたが、この芝居は相当手ごわいと思いますよ。単なる爽やかな二枚目だけではなく、人間としての大きさや考え方を、お客さんにどう納得してもらうか、そこが問題ですね。ミュージカル仕立てですから唄もありますし。そういう意味では、今までの役者としての蓄積を全部吐き出した上で、さらにどれだけ積み上げていけるか、ということを感じました」
平「そうですね。僕は、この作品に挑戦させていただくことで、役者としてステップアップできるような、そんな舞台にできれば最高だと思っています。そのためには、精一杯のことをするのはもちろんですが、ジンギスカンのように、一緒に舞台に出る仲間やスタッフに対する「信義」を大切にして、一回一回の舞台を真摯に演じたいですね」
中村「今回は市川猿之助さんが総合演出を担当されると聞きましたが、猿之助さんは歌舞伎俳優という枠に納まらないほど実に多くの抽斗を持っておられますからね。まさに総合演出の名に値しますが、ハードルは相当高いと思いますよ」
平「はい。特に歌舞伎の様式的な美しさを舞台で感じさせていただけるのではないか、とも思っています。雲の上の方のような大先輩からどういう宿題が出るのか、緊張と不安でいっぱいですが、自分の力を出し切って、挑戦します」
中村「来年の1月と言ってもあっという間ですからね。稽古前にもうずいぶん多くの宿題を抱えていますね。しかも、今までの舞台ではお父様やお母様との共演で救われる部分もあったでしょうが、今回の舞台は一人で大きな『ジンギスカン』という船の船長になるわけです」
平「はい。その責任の大きさは日々感じています。今まで恵まれた環境で舞台に立たせていただきましたので、今回は精神的にも肉体的にも逃げ場がないくらいに自分を追い詰めたいと思います。稽古開始までに、自分の中でどれだけ具体的なジンギスカン像を創ることができるか、それが勝負だと思います。皆さんにご指導をいただいて、38ステージという長丁場を一気に駆け抜けるつもりでいます」
中村「早春の銀座にモンゴルの爽やかな風が吹きぬけることを期待しています」
平「一所懸命頑張ります。今日はありがとうございました」