観客席から〜第12話〜



第12話「一人芝居」

 多くの俳優にとって、「一人芝居」は憧れの対象であるようだ。「一度は演じてみたい」という何人もの俳優の声を聴いている。

 一人芝居は技術的にも非常に難しい。何しろ舞台には一人しかいないのだから、科白を忘れても助けてくれる相手はいない。肉体的にも相当な時間しゃべりっぱなし、しかも、観客の眼は自分一人に注がれたままでどこにも逃げ場がないという状態が続く。決して楽なものではなく、過酷と言っていいほどである。だからこそ、一人芝居は俳優の魂を掻き立てるのかも知れない。

 ちょっと思いつくだけでもずいぶん多くの一人芝居が頭に浮かぶ。かつて松山政路の「審陽の月」、渡辺美佐子の「化粧」、佐々木愛の「越後つついし親しらず」、柄本明の「煙草の害について」、風間杜夫の「カラオケマン」などなど。

 一人芝居にもいろいろな形態があって、相手がそこにいることを想定して演じるもの、一人で何人もの人物を演じ分けるもの、電話を使うもの、とうとうと観客に語りかけるものなどさまざまだ。

 私が今までに観た一番長い一人芝居は加藤健一がライフワークとして演じているコリンズの「審判」である。この芝居をやりたいために自分の事務所を立ち上げたという位心血を注いだ作品である。実際にあった事件に基づいて書かれたこのドラマは、実に二時間半に及び、原作の本も140ページという厚さである。ここまで来ると俳優も観客も体力勝負の感があるが、実に良く出来た作品で、加藤健一自身の演技の評価も高く、彼がこの作品に惚れ込んだ理由も良くわかるような気がする。

 最近でも盛んに演じられている一人芝居、大きな劇場での芝居とは違った味わいがある。

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