観客席から〜第30話〜



第30話「人と話す(5)黒川真一朗さん」

 面白い青年に会った。名を黒川真一朗という。デビュー間もない演歌歌手である。「家族」という曲を引っさげて、全国をキャンペーンに歩いている。

 今年で32歳を迎える、言わば「遅れて来た新人」である。演劇人については今まで取り上げて来たが、歌手の話をするのは初めてだ。なぜ、彼を取り上げたか。純朴な中に熱い魂が燃えており、それが「表現者」としての感覚を刺激したからである。芝居であれ唄であれ、舞台の上で人に訴え、表現するという目的は同じだ。その方法が違うだけのことである。

 黒川君は、昭和の日本の唄が好きだと言う。古くは春日八郎の「あん時ゃどしゃぶり」から、伍代夏子、小林幸子、森昌子などの曲に心を惹かれると言う。それらの唄は、日本人の暖かく、優しい心を大切に唄ったものだ。それが、彼の琴線に触れたのだろう。「家族」という、そのものズバリの曲で、勝負をしている。

 甘いマスクと人をそらさない話術でソフトなイメージを与えるが、肝が据わっている。そこが頼もしいところだ。歌手になる前はホテルマンだったという彼は、そこで培ったサービス精神を唄に込めているようだ。音域の高い伸びのある声が、それを感じさせる。家族に対する想いは、人にとっては不変のものであり、それを唄う彼もまた、その想いを通じさせようとしている。

 「人に好きになられるよりも自分が好きになりたい」という感覚を持つ彼の優しさ、暖かさの中に、この唄に賭ける熱い想いを感じた。

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