観客席から〜第33話〜



第33話「初日の夜」

 舞台の批評をする関係上、初日の公演を観るケースがかなり多い。どこの劇場でもそうだが、初日は期待と不安が入り混じったある種の昂揚感がある。その中で観客席に座り、観客のざわめきを聞きながら開幕を待っている瞬間というのも楽しいものだ。  先日、ある公演の初日を観た。好きな作家の芝居であり、期待して観に行ったのだが、その初日のロビーの雰囲気が非常に良かった。チケットのもぎり、受付、席案内、みんなその事務所の若手や研究生だが、実にいい顔をしている。自分が直接舞台に出ているわけではないのだろうが、その公演に携わっていられることが嬉しくて仕方がないのだろう。その何とも言えない幸せそうな気分が、こちらの胸にも伝わって来る。それはとりもなおさず、自分の事務所の舞台に期待と自信を持っているからだろう。  私も以前自分で芝居を打ったことがあるが、初日の不安感は人々の想像以上のものがある。胃袋をねじられるような想いで、幕開きを待つ。スタッフ一同の心痛はいかばかりか。それをこっぴどく批評しなければならない場合もある。お互いに神経は研ぎ澄まされている。  しかし、この日の舞台は出来がよく、大変楽しめた。それには、当日のスタッフの素晴らしい笑顔が大きく貢献していたことは言うまでもないことだ。ここまで来るには相当の努力と苦労があったはずだが、それを微塵も感じさせない。その潔さとプロの精神が気持ち良い。久し振りに楽しい初日の夜を経験した。  そう言えば、美輪明宏のシャンソンに「初日の夜」という曲があったが、これはまた別の話。

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