観客席から〜第36話〜



第36話「初演と再演」

 どんな名作でも最初は初演だ。幕が降りるまで、いや降りても結果が出ないことがある。演劇という生き物を扱っているがゆえの苦しみである。しかし、実はもっと苦しいのは、初演の好評を受けての「再演」なのだ。再演されるということは、初演時に好評であり、それなりの興行実績も残しているからである。しかし、簡単に再演ができるかと言うと、それがさにあらず、なのだ。初演と同程度の出来上がりを見せたのでは「初演の方が良かったなぁ」ということになる。初演よりも少し良くなっていて、初めて「やっぱりいいなぁ」ということになるのだ。その「少し良くなる」=芸の寸法を伸ばす、ということが、出演者には死ぬ苦しみに等しい。再演だから勝手はわかっているものの、それだけに難しいのだ。

 来月、加藤健一事務所で「バッファローの月」を再演すると言う。今、稽古真っ盛りで、その稽古場を覗いて来たが、みんな苦しんでいる。初演よりもさらに出来をよくするにはどうしたらよいか、という苦しみで、何もないところからの苦しみともまた違う。芝居について加藤健一を中心にディスカッションしたりしているが、苦しそうな一方で、楽しそうでもある。それが、「芝居を創る」、ということなのだ。

 加藤健一が言っていた。「いい芝居なんですよ。だから、一人でも多くのお客さんに観てもらいたいんです」と。その気持ちは芝居の世界に棲む者の一人として、実によくわかるのだ。僕が芝居の批評を書くのも、面白い芝居を多くの人に伝えたいからに他ならないのだから。「観て良かった、と思える芝居が創りたいですね」と語る加藤健一の目がキラリと光った。獲物を探すケモノの目、だった。

ひとつ前の記事に。

一覧へ



Copyright (C)1997- Yoshihiro Nakamura.
Supproted byMousou-System.