観客席から〜第55話〜



第55話「役者に惚れる(1)武智健二さん」

 劇評家というものは、公平無私な立場に立って批評をするのがその職責である。それには、芝居に惚れていなければできない。ビジネスとして考えたら、こんなに割りの合わない仕事はないだろう。

 「惚れる」。この言葉が私は好きだ。芝居に惚れて、三十年が過ぎたが、一向に熱は冷めない。芝居に惚れるということは、役者に惚れる、ということでもある。今までにずいぶん多くの役者に惚れてきた。芸はもちろん、そのひたむきな生き方やストイックな厳しさ、教えられることは相手の年齢を問わず多い。

 JAE(ジャパンアクションエンタープライズ)の武智健二さん。33歳。アクション俳優として乗っている盛りだ。笑顔の爽やかな青年である。彼と知り合ったのは、もう5,6年も前だろうか。その印象は今も変わらない。

 先日、彼の舞台を久しぶりに観た。私の言う「芸の寸法」が伸びていた。彼が、どんな努力をしてきたのかつぶさには知らないが、「情のある」芝居ができていた。アクション俳優であれば、身体のキレがいいのは当然だが、芝居の切れ味が良くなっている。役の性根をよくつかんでいたのが好ましかった。何よりも、芝居に対する敬虔な姿勢が嬉しい。舞台に立つことの怖さを知っている証拠でもある。彼のように真剣な役者が、どんどん修行をし、揉まれる場を作りたいものだ。

 こういう進歩に出会うと嬉しいものだ。年輪に裏打ちされた名優たちの至芸も素晴らしいが、これから伸びていく人々のエネルギーに満ち溢れた芝居もまた楽しい。こういう出会いがあるから、劇場通いが止められないのだろう。

 「惚れた欲目」、「惚れたが因果」。昔の人はうまいことを言ったものだ。

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