観客席から〜第59話〜



第59話「先達の死」

 テレビの名プロデューサー・久世光彦さんが急逝された。仕事でご一緒したことはないが、数々の名作を世に送り出し、その豊かな才能には瞠目していた方だっただけに、その突然の死は私にとってはかなりのショックであった。

 テレビドラマで一つの時代を築いたことは言うまでもないが、私が敬愛する作家・向田邦子の作品を手がけておられたことが、私の心の中で久世さんに対する好意だったのか、とも思う。

 久世さんの訃を知り、驚き、哀しみもしたが、つくづく人生の儚さを感じもした。我々は何の根拠もなく、明日の朝当然今朝と同じように眼が覚めるものだと確信している。しかし、その保障はどこにもない。もっとも、そのことばかりを心配していては何もできはしないのだが。

 ただ、「今日を最後の一日と思え」というユダヤの格言ではないが、日々を一生懸命生き、悔いの残らない人生を送るべく努力をすることは大切なのだ、と思う。我々人間は怠惰な動物である。やりたくないことの言い訳は300でも500でも出てくる。

 「忙しい」とか「暇だ」という問題ではなく、自分に与えられた一日をどう生きるか、その質の問題だろう。もちろん、毎日それをやっていたら参ってしまうから、遊びも休みも必要だ。ただ、日々のコツコツとした積み重ねをした人と、しない人の人生の豊かさは、年齢には関係ないのではないか、とも思う。

 何かに駆り立てられるように無闇に忙しい世の中で、それぞれの年代に悩みはある。ただ、ふと立ち止まって、今の自分が何をなすべきなのか、何ができるのか、それを考えてみることも必要なのだ、ということを、久世さんの死で教えられたように思う。

 大きな足跡を残した久世さんの冥福を祈る。

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