女優の曽我町子さんが亡くなった。多くの報道がアニメの「オバQ」の声やNHKの人形劇「チロリン村とくるみの木」でお馴染みの…という記事を載せていた。間違いではない。確かに、曽我町子、という女優をイメージすると、この2つの大きな仕事が彼女の位置づけをし、ある意味では苦しめもした。
ふと、ずいぶん昔のことを思い出した。もう26,7年前になる。新宿の伊勢丹のそばに「モーツァルト・サロン」という店があり、小さなステージがついていた。私が高校生の頃である。
そこで、曽我さんがコクトーの「声」という一人芝居を演じた。ちょうど高校で仲間たちと劇団をやっていて、一人芝居を書こうとしていたものだから、大喜びで観に行った。ませた餓鬼だ。
舞台が終わった後、気さくな曽我さんは詰襟の学生服の相手をして、しばらく話をしてくれた。コクトーについてなど、今もあまりわかってはいないが当時は更に無知である。しかし、そんな学生に対し、曽我さんはいろいろな話をしてくれた。明るく、陽気な、テレビのイメージそのままに。
彼女の女優としての生涯が幸福であったかどうか、それは彼女にしかわかるまい。しかし、マスコミが大々的に取り上げはしなかったが、彼女がそうした芝居に真剣に取り組み、今までのイメージを打破しようともがいていた時期だったのでは、と今になって思う。
天国で賑やかに、「あらやだ、まだそんなこと覚えていたの」と笑われてしまうかもしれない。しかし、こうした事実、曽我さんがコクトーのあの難しい一人芝居に挑んだ、という事実だけは忘れてはいけないような気がする。遥か昔の舞台に想いを致し、一人の女優の生涯をたどることもまた私の追悼である。